200種類の母音?
みなさん、こんにちは!
車田和寿です。
今日は、ポジションと母音の関係について話をしていきます。
歌を歌う上で、もっとも大事な要素の一つが母音です。僕たちは歌を歌う時に、何種類もの母音を歌う事になりますが、多くの人は、母音の種類というのは言葉によって決まっていると思っているのではないでしょうか。
例えば日本語であれば「あいうえお」の5つの母音がありますよね。イタリア語も基本的には5つですが、実際にはEとOに二種類ずつありますので、それを含めると7種類の母音があります。
じゃあドイツ語はどうでしょうか。ドイツ語にはウムラウトと呼ばれる母音もあり、長母音と短母音でも発音が異なりますので、数え方にもよりますが15種類から17種類ぐらいあると言われています。
ちなみに英語はさらに多く、全部合わせると20種類前後あると言われています。アルファベットのAだけでも、かなり多くの発音がありますよね。
こういう話をすると、**「歌手になるには20種類の母音を正確に発音できなければいけない」**と思う人も多いと思います。
もちろん、それは半分正しいです。言葉がちゃんと聞こえる歌手になるためには、母音を正確に発音できる事は大事です。
しかし残念ですが、歌に必要な母音は、単なる20種類ではありません。
そこには、この間説明した**「ポジション」**というものが関係しています。
今日は、そんな「母音とポジションの関係」の話です。ポジションについては別の動画で詳しく話していますので、まだ見ていない人は後でちゃんとチェックして下さい。
母音とポジションの関係
さて、まずは話を簡単にするために、20種類ではなく、IUOAEの5つの母音に簡略化して説明していきましょう。
良い歌手になるためには、このIUOAEを明瞭に発音する必要があります。しかし、それは僕が今話しているIUOAEとは、違ったポジションで行われなければならないんです。
今話している時のIUOAEは、明瞭に聞こえると思います。ですが、これは喉が高い位置で話しています。つまり、ポジションは高い所にあります。
とりあえず、**「地上1階で話している」**とイメージしてみて下さい。
そこでIUOAEと言うのは、決して難しくないですよね。ちゃんと練習すれば、多くの人が最終的には20種類の母音を、言葉として聞き取れるぐらいには発音できるようになります。
しかし、これはあくまで高いポジション、つまり「地上1階」での話です。
でも歌うとなるとどうなるでしょうか。高い音になると、喉はさらに上がっていってしまい、最終的には地上5階ぐらいまで上がってしまいます。
実は、喉が5階分上がったら、そこで発音されるIUOAEは、地上1階のIUOAEとは、厳密には異なるクオリティーの母音になってしまうんです。
これが、ポジションと母音の関係です。
同じIUOAEだと思っていても、ポジションが変わると、もはや同じクオリティーの母音ではなくなってしまうんです。
オペラにおける正しいポジション
さて、ここからはオペラを歌う場合の話をしていきましょう。
オペラを歌う場合、基本的に、地上1階のIUOAEは使いません。
それとはまったく異なるクオリティーのIUOAEを使います。
では、正しいポジションとはどのあたりなのでしょうか。
オペラにおける正しいポジションというのは、だいたい地下8階から地下10階ぐらいだと思って下さい。
本当に優れた歴史的歌手というのは、だいたい皆、この地下8階から地下10階ぐらいのポジションでIUOAEを発音しています。
一方で、声楽を勉強中の音大生というのは、だいたい地下2階から地下5階ぐらいの所で歌っています。本人は一生懸命ポジションを下げようとしているかもしれませんが、まだまだ浅いです。
この時、仮にIUOAEが明瞭に聞こえていたとしても、オペラを歌うクオリティーとしては、非常に浅く、平べったい母音になってしまいます。
つまり、地下4階のIUOAEは、オペラにおいては決して理想的な母音ではないという事です。
では、地下8階から地下10階あたりでIUOAEを発音するとどうなるでしょうか。
同じIUOAEでも、非常に深みのある母音になります。
今回は細かい説明は省きますが、まず大事なのは、**「母音は全部同じではない」**という事です。
母音というのは、ポジション、響き、クオリティーによって、全然違うものになります。
実際には「数百種類」の母音がある
そして、これはあくまで例えですが、地下10階から地上5階まで、15階分のポジションがあるとするならば、15階分、それぞれに異なるIUOAEが存在する事になります。
つまり、各階に20種類の母音が存在するとしたら、実際には数百種類もの母音が存在するという事になります。
これは、地上1階と地下10階を比べれば、本当によく分かる違いです。
例えば、地上1階のU。特に日本語のUは、非常に浅いですよね。(詳しくは動画をご覧ください)
『Una furtiva lagrima』を、高いポジションと地下8階ぐらいのポジションで比べてみれば、一発で分かります。
これは、もはや同じ母音ではありません。
なぜポジションを一定に保たなければいけないのか
これが分かると、**「なぜ歌う時に、ポジションを同じ高さでキープしなければいけないのか」**が見えてきます。
音が高くなると喉が上がる人が多いですが、それはつまり、母音のクオリティーが、より浅いものへ変化していっているという事です。
つまり、同じクオリティーの母音を保つ事ができない。だから、響きのクオリティーが統一されず、結果として本当の意味でのレガートにならないんです。
レガートというと、「音がつながっていればいい」と思っている人もいるかもしれません。
しかし、声楽における本当のレガートというのは、
- ポジションが一定
- 母音のクオリティーが変化しない
その上で、初めて成立します。
だから、本当に優れたレガートと、ただ音が切れていないだけのレガートは、まったく別物なんです。
まとめ
今日は、「ポジションと母音の関係」の話をしました。
まず大事なのは、
- 母音は単なるIUOAEではない
- ポジションによってクオリティーが変わる
- 同じ母音でも深さがまったく違う
- 歌では地下深くの母音が必要になる
という事です。
そして、ポジションが変わると、母音そのものが変わる。
ここをまずしっかり押さえておいて下さい。
次回は、**「ポジションから母音がどのように生まれるのか」**という話をしていきたいと思います。

